2023年度(令和5年)表彰
海洋音響学会表彰規程に則り2023年度(令和5年)の表彰選考が行われ,次の諸氏が表彰されました.
1. 論文賞
論文賞は,本会表彰規程に基づき,2021年10月から2023年9月までに発表された論文のうちから,海洋音響技術に関する優秀論文2編を選考して,表彰及び賞金を贈呈した.
Volume backscattering spectra measurements of Antarctic krill using a broadband echosounder
Natsuki Yamamoto Tokyo University of Marine Science and Technology
Kazuo Amakasu Tokyo University of Marine Science and Technology
Koki Abe Fisheries Resources Research Institute, Japan Fisheries Research and Education
Agency
Ryuichi Matsukura Fisheries Resources Research Institute, Japan Fisheries Research and Education
Agency
Tomohito Imaizumi Fisheries Technology Institute, Japan Fisheries Research and Education Agency
Tomohiko Matsuura Fisheries Technology Institute, Japan Fisheries Research and Education Agency
Hiroto Murase Tokyo University of Marine Science and Technology
注) 受賞者は,本学会表彰規定第14,17条により本学会通常会員,名誉会員,終身会員に限定
また,受賞者の所属は論文掲載時の所属
Fisheries Science, Vol.89, pp.301–315 (2023)
ナンキョクオキアミ(オキアミ)の体長や配向角を音響学的に推定するためには,信頼性の高い理論的な音響散乱モデルとパラメータが必要である.本論文は,体積後方散乱(SV)スペクトルを測定し,確率論的歪曲波ボルン近似に基づく変形円柱モデル(SDWBA-DCM)によって予測されるターゲット強度(TS)のスペクトル形状が,測定されたSVのそれと一致するかどうかを明らかにすることを目的としている.筆者らは,2018/19年豪夏期に南極東インド区で9つの集合体を対象とした広帯域エコーサウンダーと矩形中層トロールによる同時サンプリングを実施し多量の観測データを得ている.これらの観測結果では,SVスペクトルは50–85 kHzと95–255 kHzで測定された.そこで筆者らはSDWBA-DCMとトロールサンプルから得られた体長頻度分布を用いて,体長平均TSスペクトルを予測し,両スペクトルをそれぞれ120 kHzのSV値とTS値で正規化し,相対周波数応答を比較している.これらから,35mm未満のオキアミが優占する集合体の場合,スペクトル形状は妥当な一致を示すことを見出している.一方,35 mm以上のオキアミの場合,スペクトル形状の一致は見られず、筆者らはこの不一致の原因として,オキアミの配向角分布や形状が原因であることを示唆している.
本論文で得られた成果は,計算モデルと長期間の航海により得られたデータとの一致性を見出しており,将来の地球規模での食料の安定供給に向けた手法ならびに資料として,海洋音響学の発展に大きな寄与が期待できる.
2. 論文賞
Statistical analysis of measured underwater radiated noise from merchant ships using ship operational and design parameters
Masahiro Sakai Graduate School of Engineering, Osaka University
Reo Haga Graduate School of Engineering, Osaka University
Toshio Tsuchiya Graduate School of Marine Technology, Tokyo University of Marine Science and Technology
Tomonari Akamatsu Ocean Policy Research Institute, the Sasakawa Peace Foundation
Naoya Umeda Graduate School of Engineering, Osaka University
注) 受賞者は,本学会表彰規定第14,17条により本学会通常会員,名誉会員,終身会員に限定
また,受賞者の所属は論文掲載時の所属
J. Acoust. Soc. Am., Vol.154, pp.1095–1105 (2023)
船舶は,通常の運航では主にプロペラのキャビテーションによって,意図せず水中騒音を放射している.2022年国際海事機関(IMO)は,船舶からの水中放射騒音(URN)低減のための非義務的ガイドラインの見直しを開始した.船舶からのURNの特性は古くから研究されており,船の大きさや速度によるURNレベルの定量的な変化も報告されている.船舶設計の観点からは,船速と喫水の影響はそれぞれ設計速度と最大喫水に対する比として考えるのが妥当であるとして本論文では,シーレーン下の深海(水深300 m以上)で水中音波測定を実施し,URNからの音源レベルに回帰分析を適用している.多数の商船からのURNの音源レベルについて,船体長,船速と設計速度の比,喫水と最大喫水の比を用いて回帰分析を行い,音源レベルに対して,船体長,設計速力に対する船速比,最大喫水に対する喫水比を用いた回帰分析を適用して検討している.
本論文では,プロペラキャビテーションによる URN の特徴に基づき,発生源レベルを単純化しており,これにより1つの係数でURNレベルのスペクトルのおおよその形状を表すことが可能となることを示している.さらに,URNレベルのばらつきについて,先行研究との比較も含めた考察も展開している.
本論文で得られた成果は,水中の環境問題に着目してまとめた資料として高い価値があるものであり,今後の水中における環境問題の改善のための資料として,海洋音響学の発展に大きな寄与が期待できる.
3. 業績賞
業績賞は,本会賛助会員である企業の技術者または技術者のグループが達成した海洋音響技術に関する優秀な技術開発業績を選考し,その貢献企業及び貢献者に表彰盾,表彰状を贈呈した.
複数AUV管制用音響通信測位統合装置の開発
近藤 哲之 株式会社日立製作所
本開発は,海底を探査するAUVとそれを海上から制御するASVに搭載する音響通信測位システムの開発に関するもので,内閣府の第2期SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)のひとつの開発アイテムである.第1期SIP「次世代海洋資源調査技術」における水深2,000 m以浅の海底熱水鉱床を主な対象とした成果を活用し,これらの技術を段階的に発展・応用させ,基礎・基盤研究から事業化・実用化までを見据え,海洋資源開発への適用及び,2,000m以深での資源調査技術,生産技術の開発を世界に先駆けて進めるプロジェクトである.第2期SIPでは,水深6,000mで10機のAUVを同時に制御するためのマルチユーザ通信測位統合装置を開発した.2020年の海域試験では装置単体にて,上記の機能を確認し,2022年には,水深1,400 mの海域において,4機のAUVを同時に制御する実証試験に成功した.本装置は実用的な技術であり,社会的な貢献度は非常に高く,今後の海洋音響学の発展にも寄与するものである.