概 要
海産哺乳動物をはじめとする海洋生物の声を利用した受動的な音響観測技術が、注目 を集めている。対象生物にまったく影響を与えずに、昼夜の別なく長期観察できる利 点が評価されている。すでに、いくつかの先行研究がなされているが、我が国の海洋音響研究においても、この分野での基礎研究が進行している。本書では、クジラの鳴音のような低周波、イルカやジュゴンのコミュニケーションに用いられていると考え られる中周波から、イルカのソーナー音のような高周波までを対象とし、それぞれの 周波数帯域で、以下の3点を中心に議論が展開されている。
①確度の高い探知のために注目すべき音響特性と解析手法
②これを受信するために適切なシステムの構成
③音響技術から得られる生物学的に重要な情報
本書は、海洋音響学会が組織した「声を利用した海洋生物の音響観測部会」での報告 をまとめたものである。2004年から2005年にかけ7回開催された本部会は、音響伝 搬、信号処理、動物行動、海中ロボットなどの複数の専門家が集い、基礎的な理論か ら実際の装置設計や運用までの広い範囲の話題が扱われた。本書により、研究部会で 提供された豊富な情報を多くの方々と共有することができれば幸いである。
目 次
第1章 海の哺乳類を声で見る
鯨類の鳴音を利用した行動観測
浦 環 杉松 治美
高周波鳴音によるイルカの探知
赤松 友成
中周波鳴音によるイルカの探知
中原 史生
中周波鳴音によるジュゴンの探知
新家 富雄
低周波鳴音によるヒゲクジラの探知
―資源管理の観点から―
村瀬 弘人
第2章 受動的音響探知技術
海洋哺乳類の声を捉えるパッシブソーナー関連技術の最近の動向
尾崎 俊二
イルカの音波伝搬シミュレーション
―海洋内の音波伝搬数値解析―
土屋 健伸
低周波音波(ヒゲクジラ鳴音)伝搬と海底音響特性の推定
松本 さゆり 太田 和彦
自由遊泳するイルカに装着するための新しい音響データロガー
赤松 友成 松田 秋彦 鈴木 四郎
王 丁 王 克雄 鈴木 道彦
村元 宏行 杉山 直樹 太田 克憲
第3章 能動的音響探知技術
イルカのソーナーを真似てみる
古澤 昌彦 今泉 智人 赤松 友成
近年の超音波ドップラー計測の紹介
西田 優
表紙写真
笹森 琴絵 (ジャンプするカマイルカ)
装丁
太田 美由紀