概要
環境、エネルギー、資源、食料等の諸問題を考える上で、海洋の役割は重要である。日本は、国土の面積の10倍以上にもなる世界6位の面積の排他的経済水域をもち、海洋の開発及び利用が我が国の経済社会の存在の基盤である。2007年には海洋基本法が成立、施行され、海洋に関連した科学技術の重要性はますます高まっている。海洋音響技術は、海洋の利用と保全にとって基盤となる技術であるが、国内の研究、技術レベルは必ずしも満足できる状況ではない。例えば、米国音響学会の年2回の定期大会での水中音響の発表件数は、156件(2008年秋、2009年春)で、学会誌 Journal of the Acoustical Society of Americaへの論文掲載も150件以上(2008年 Express Latterを含む)あり、海洋音響学会の年一回の研究発表会での発表件数が30件程度であることと比較すると、かなりの差がある。さらに、アジア地域の周辺各国の技術、研究レベルの進歩も上がっており、中国音響学会誌 英文版の Chinese Journal of Acoustic は海洋音響学会誌と同様の年4回発行の季刊であるが、2008年には計37編の掲載論文中12編が水中音響の論文であった。
このような状況と、国内の現状を考えると海洋音響及びこれに関連のある諸分野の一層の振興を図るには相当の努力が必要である。海洋音響学会は、これまでに、研究発表会、技術講習会、講演会、談話会、シンポジウム、教科書の発行などの海洋音響に関する各種事業を行っており、海洋音響研究の中心的学会であるが、継続的なデータの蓄積やツールの提供などについてあまり考慮されてこなかった。最近は、情報技術の発展により、従来に比べて容易に情報発信や蓄積が可能となっており、これを積極的に利用することが有効である。そこで、海洋音響関連のデータ、ツールなどの現状を調査するとともに、利用可能なデータやツールを蓄積、または使用方法を解説し、少ない労力で、一定水準の研究、技術レベルを確保する一助となるよう研究、教育用にライブラリー化を行い、学会webなどを通じて学会会員等に公開することを目的として、調査研究活動を行った。
目次
第1章 部会の概要
1.1 目的
1.2 部会の構成および経過
1.3 成果の概要
第2章 海洋音響トモグラフィ
2.1 概要
2.2 JAMSTECプロジェクト
2.3 その他の事例
第3章 音響伝搬プログラム
3.1 プログラムの分類
3.2 代表的な解析手法の紹介
3.3 公開されているプログラム
第4章 海底堆積物および地中の音響特性に関する研究例
4.1 海底堆積物の音響特性
4.2 地中の音響特性